大阪地方裁判所 昭和24年(ワ)869号 判決
原告 宮野五一郎
被告 大和機工株式会社
一、主 文
被告会社が昭和二十四年四月二十八日開催せられたる臨時株主総会において為した決議はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として被告会社はもと商号を旭鋼機株式会社と称し、資本金百万円、総株数二万株、一株の金額五十円、全額払込済の会社であつて本店を大阪府南河内郡長野町大字長野五百五十七番地に、営業所を原告の肩書地に置き、代表取締役に原告及び被告会社の現代表取締役たる松島寛治、取締役に訴外佐野永三郎、西尾芳夫、監査役に訴外清水洋、田丸善政が就任していた。
然るに被告会社は昭和二十四年四月二十八日臨時株主総会を開催し、代表取締役宮野五一郎、取締役西尾芳夫を解任し、新に訴外大野修二、浜野実を取締役に選任し、商号を大和機工株式会社と変更し、本店を大阪府南河内郡富田林町大字毛人谷二百八十五番地に移転する旨の決議を為した。
然しながら右株主総会の決議は次ぎの理由によつて取消さるべきものである。
(一) 右臨時株主総会の招集について取締役の過半数の決議が存しない。
(二) 株主に対する総会の通知には単に取締役の解任とのみ記載せられ、特定の取締役を如何なる事由に基き解任するものなりや不明であるのみならず、後任取締役の選任、商号変更及び本店の移転を会議の目的たる事項として記載しない。
(三) 株主に対する総会の通知に総会開催の場所を大阪府南河内郡富田林町大字毛人谷佐野永三郎方と記載しながら当日に至り本店所在地(原告方)に変更通知した。
(四) 前記株主総会において原告及び訴外西尾芳夫を解任する議案の説明に際し、被告会社代表取締役松島寛治は原告が被告会社の売掛代金を横領した旨虚偽の事実を告げ、原告は刑罰に処せられ、二、三年間は釈放せられざるべしと強調し、出席株主を錯誤に陥入らしめ因て不当の決議を為さしめた。
(五) 被告会社代表取締役は原告が株主総会に出席し、横領の事実なきことを反駁することを恐れ、何等管轄権なき天王寺警察署に懇請して原告を昭和二十四年四月二十三日より同年五月三日迄の間留置拘禁せしめ、その不在中を狙い本件株主総会を開催し、不当の決議を為さしめたものである。
以上の通り本件株主総会はその招集手続及び決議方法が法令に違反し、且つ著しく不公正であるから株主たる原告は右総会において為された決議の取消を求めるため本訴に及んだものであると陳述した。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として被告会社の設立当初の商号、資本、本店所在地が原告主張の如くであること、被告会社が原告主張の日時臨時株主総会を招集し原告主張の如き決議を為したこと、原告が被告会社の株主であること、右臨時株主総会の招集に当り取締役会の決議が存しなかつたこと、右株主総会開催当時原告が身柄を拘束され総会に出席しなかつた事実は争わない。
被告会社は原告、訴外佐野永三郎及び被告会社代表取締役松島寛治の三名の出資を中心として設立された会社であつて、株主数は二十三名、取締役西尾芳夫は原告の店員であつて原告の持株を形式上西尾名義となし、原告の利益擁護の為取締役に選任せられたものであるが、原告及び西尾に背任行為が存したので、松島及び取締役である佐野永三郎は昭和二十四年四月十日頃原告及び西尾に対し、原告及び西尾の背任行為の有無、取締役解任問題等に関し株主総会の決議を求める必要があるので臨時株主総会を招集したいからと申出でたところ、右両名共株主総会において真実を発表して黒白を明かにすることは却つて自分等の希望するところであるとしてこれを承認した。そこで株主総会開催の期日を同年四月二十八日と定め、代表取締役松島寛治は各株主に招集通知を発し、而も各株主に個々面接し口頭をもつて商号変更、本店移転、原告及び西尾の取締役解任が株主総会の議案なることを説明し、全株主はこれを承知した。
以上の次第であるから本件株主総会招集の事実は取締役たる原告及び西尾の共に承諾していたところであり、全株主は右総会において決議すべき議案を予知していたのであるから、本件決議に何等の瑕疵なく、又原告及び西尾には真実背任行為が存し、株主総会はこれを理由として右両名の取締役解任の決議を為したものであるから右決議も亦何等不当ではない。
原告主張の株主総会によつて後任取締役に選任せられた訴外浜野実及び大野修二は原告から本訴の提起のあつたことを快しとせず、何れも取締役を辞任したが被告会社は監査役の招集に基き昭和二十四年八月二十八日再び臨時株主総会を開催し、被告会社の商号を大和工具株式会社と変更し、本店を大阪市天王寺区堂ケ辻町五十五番地に移転し、取締役たる原告及び西尾芳夫を解任し、後任取締役として訴外大野修二、本郷清信及び安田応信を選任する旨の決議を為した。従つて仮に同年四月二十八日の決議が原告主張の如く取消さるべきものであるとしても、同年八月二十八日の株主総会において同様の事項について決議を為しているのであるから、これを取消すべき何等の実益がない。何となれば前記四月二十八日の総会が有効なものとして施行されたのは同年八月二十八日の決議ある迄の四箇月間であるが、この間前株主総会の決議に基き移転された本店の所在地で変更された商号を使用して被告会社が営業をしたとて株主に損害の発生する筈なく、又前株主総会の決議により選任された取締役浜野実及び大野修二は選任後一度も取締役として被告会社の業務を執行したことがない侭辞任したので、両名の選任により毫末も被告会社並びに株主に損害を及ぼした事実なく、更に原告並びに西尾は前株主総会の決議によつて取締役としての業務執行権を喪つたが、両名は八月二十八日の総会の決議によつて改めて解任されたのであるからその間背任行為を為す両名が業務の執行を為さなかつたとて、被告会社及び株主の利益にこそなれ何等損害を蒙ることなく、仮に損害ありとするも前総会の決議を取消すことによつて回復し得べきものではない。而かも前株主総会の決議を取消すことにより決議後八月二十八日迄の間に被告会社と第三者との間に生じた法律関係を徒らに紛糾せしめるのみならず、登記手続の為無用の手数と費用を被告会社に負担せしめる結果となり被告会社並びに株主にとり百害あつて一利ないことである。以上の次第であるから仮に本件株主総会の決議に瑕疵があつたとしても旧商法第二百五十一条の趣旨に従い原告の請求は棄却せらるべきものであると陳述した。<立証省略>
三、理 由
原告主張事実中被告会社の設立当初の資本、商号及び本店所在地が原告主張の通りであること、原告主張の臨時株主総会において原告主張の如き決議が為されたこと、原告が被告会社の株主であること、右株主総会の招集に当り取締役会の決議の存しなかつたこと、右株主総会開催当時原告が身柄を拘束され総会に出席しなかつたことは当事者間に争がない。
よつて原告が右臨時株主総会の決議取消の事由として主張する事実について按ずると、
(一) 本件臨時株主総会の招集について被告会社の取締役会の決議が存しなかつたことは被告の争わないところであつて、被告は昭和二十四年四月十日頃被告会社代表取締役松島寛治及び取締役佐野永三郎は取締役たる原告及び西尾芳夫に対し、臨時株主総会を招集すべきことを諮つたところ、原告及び西尾は異議なくこれを承諾したと主張するが、この点に関する証人清水洋、佐野永三郎の証言及び被告会社代表者本人尋問の結果は証人西尾芳夫の証言及び原告本人尋問の結果と対比すると直ちに採用し難く、他に被告主張事実を認むべき確証がない。
(二) 成立に争のない甲第四号証によれば本件株主総会の招集の通知には会議の事項として、(イ)取締役解任に関する件、(ロ)取締役解任に伴う当会社運営に関する件、(ハ)其他之に附随する緊急事項報告に伴い相談事項多数とのみ記載せられ、取締役中何人を如何なる事由に基き解任するものなりやの記載なく、且つ商号変更及び本店の移転は全然記載せられていないことが認められる。被告は被告会社代表取締役松島寛治は各株主に対し招集通知を発すると共に各株主に個々面接し口頭をもつて取締役たる原告及び西尾の解任、商号変更及び本店移転が本件株主総会における議案なることを説明し、全株主は右総会における会議の目的たる事項を予知していたものであると主張するが、これを認むべき確証がない。
(三) 成立に争のない甲第三、四号証によれば被告会社の株主に対する本件臨時株主総会の招集の通知には株主総会開催の場所として南河内郡富田林町大字毛人谷二百八十五番地佐野永三郎方と記載せられていたところ、被告会社は、総会当日である昭和二十四年四月二十八日総会開催の場所を長野町字長野五百五十七番地宮野五一郎方に変更し、同日附をもつてこれを株主に通知した事実を認め得べく、右認定に反する乙第三号証の二は採用しない。
(四) 被告会社代表者本人尋問の結果によれば、被告会社代表取締役は原告に背任の容疑ありとなし、原告を天王寺警察署に告訴し、原告は同年四月二十二日から同年五月初迄身柄を拘束せられていたこと、本件臨時株主総会開催の主要の目的が原告及び原告の店員である西尾芳夫を解任するにあつたことを綜合すれば、被告会社代表取締役は故らに原告をして本件株主総会に出席不能ならしめて、本件決議を為さしめたものと認めるのを相当とする。
原告は本件株主総会の招集通知には後任取締役選任なる事項を会議の目的として記載せられていないと主張するが、右事由は昭和二十四年九月七日の本件口頭弁論期日において追加主張したものであつて、本件株主総会の決議後一箇月以上を経過し、昭和二十五年法律第百六十七号による改正前の商法(以下旧商法と略称する)第二百四十八条により許されざるものである。又原告主張の(四)の事実はこれを認むべき確証がない。
然らば本件臨時株主総会は取締役の過半数の決議を経ずして招集せられ、株主に対する招集通知に会議の目的たる事項を記載せず総会当日に至り総会開催の場所を変更し、その変更せられたる場所において決議を為し、且つ故らに原告を出席不能ならしめて原告を解任する旨の決議を為したものであつて、総会招集の手続が旧商法第二百三十六条、第二百三十二条に違反し且つ決議方法が著しく不公正であると謂わなければならない。
被告は被告会社の監査役は昭和二十四年八月二十八日更に臨時株主総会を開催し、同年四月二十八日の株主総会において決議せられた事項と同一の事項について適法な決議を為しているので、本件株主総会の決議を取消す実益なく、且つ右決議により株主及び被告会社共何等の損害を蒙つていないのみならず、本件決議の取消により徒らに法律関係の紛糾を来し、被告会社に無用の手続と費用を負担せしめることとなるをもつて旧商法第二百五十一条の趣旨に則り原告の本訴請求は棄却せらるべきものである旨主張するが、本件に現われた一切の事情を斟酌するも本件決議の取消を為すことが不適当であるとは認められないから被告の主張は採用しない。
然らば本件株主総会の決議の取消を求める原告の本訴請求は正当であつてこれを認容すべきものである。なお原告は本件判決に仮執行の宣言を求めるが、本判決には仮執行の宣言を附すことを適当としないから右申立はこれを却下すべきものである。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 岩口守夫)